【前回記事を読む】息子が描いた恐竜の絵を見て、親父はデリカシー・ゼロ。「弱肉強食! いつの世も『弱者』は『強者』の餌食になるんだな」
第1章 二つの決勝戦〜WBCと甲子園 二〇二三年
八月二十三日、夏の甲子園決勝戦
諭の事務所は、角田の浪華電産、つまり買われる側の代理人をやっていた。DD(デューデリジェンス=資産査定)のチームの末端でちょっとだけ関与している。
角田と何度か飲むうちに、アクティビストとの対応に忙殺されている苦労談を聞かされた。角田は、株主名簿をにらみながら、株主総会で反対の出そうな案件を票読みし、TOB(株式公開買い付け)提案を受けた場合のシミュレーションに悪戦苦闘する毎日だった。
アクティビストは、物言う株主のこと。二〇一四年には八つだったのが、二〇二三年に七十に達し、企業の経営陣が自社株を買い取って上場廃止するMBOの金額は前年度比五倍の一兆四千億円と過去最多になったと、日本経済新聞は報じている。
MBOは経営陣が会社の株式を購入して非上場化する。そのためのスキームの一部がTOBだ。中国五経の一つ「春秋の注釈書」の筆者なら、MBOとTOBは唇歯輔車(しんしほしゃ)の仲だと評するかもしれない。
TOBという手法を使って、経営の自由度が増す上場廃止を選び、株主の影響力を削ぎにかかる企業が増えてきた。
忌避されがちだった敵対的買収も「同意なき買収」とやや穏当な表現に変わってアレルギーは薄れ始めた。
同紙によると、二〇二四年に東京証券取引所で上場廃止したのは九十四社と過去最多に達し、東証の企業数は最低になったという。
同意なき買収や、物言う株主、株式市場からの退出が、鼎(かなえ)のように、企業社会を変え始めている。