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諭の母方の祖父・草壁俊英と、父方の大伯母・佐多松子が天空のグラウンドで野球をテーマに井戸端会議を繰り広げている。
俊英「野球で日本がアメリカを負かすなんて夢のようだ。大正生まれの俺たちにとって、昭和は戦争で負けた暗い歴史と、その後の復興でアメリカに追いつけ、追い越せが合言葉だった時代だ。平成は失われた三十年間とかレッテルを貼られて、いま一つだった。 令和はどんな時代になるんだろうな」
松子「グラウンドの若者を見ていると、楽しそうね。みんなナイス・ボーイで体格もいいわ。 慶応高校が夏の甲子園で優勝したのは百七年ぶりですって。わたしの生まれる十年前ってこと? 乙女のころ、大学の最後の早慶戦を観に行った。 ヒデちゃん……初恋の人……光る君が出場していたの。 ハンサムで恰好良かった」
俊英「ああ、神田秀樹だね。 駿河中学時代に俺とバッテリーを組んでいた。 くしくも安部球場の反対側のスタンドで松子さんと同じ選手を応援していたわけだ。俺の母校早稲田の圧勝だったがね」
松子「俊英さんにとって義理の息子の胖の視点では、甲子園はリベンジだったのね。彼の小学校時代の野球仲間が仙台育英で甲子園に出たんですって。 それで甲子園の土を送ってくれたの。 あたしに言わせりゃ、なんでこんなものって思ったんだけど、引っ越すたんびに後生大事に持っていっていたわ」
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