浪華電産は、投資ファンドからの要求を門前払いして株主総会が大荒れになった。経営の意思決定がなかなか定まらず、物を言わなかった安定株主からも批判の声が噴出する。

結末は、海外ファンドと組んだ台湾メーカーがTOBをかけて、さしもの名門も海外資本の軍門に下った。

新幹線は新横浜を通過して品川に向かう。塚田が自信なさげに問う。「なんて言ったっけ? スクイズ失敗でアウトになった、みたいな」

「スクイーズアウトだね。少数株主の株式を強制的に買い取ったんだ。もちろんアクティビストの保有株もその対象だ。かなり悶着があったけど、レモンを搾り出すみたいに、会社から物言う株主を一掃した。会社法が改正されて、スクイーズアウトしやすくなったのも背景にある」

難解な法律用語を駆使する二人の言葉のキャッチボールを門外漢然と眺めていた胖がまた横槍を入れる。

「スクイーズアウト? 浪華電産からたいそうな弁護士費用を搾り取ったんだろう? そういえば俺も高校時代にスクイズ失敗からアウトをとられたことがある」

一九七五年七月。慶応高校野球部だった胖は夏の神奈川県予選で初の三塁打を放つ。スクイズのサインで猛然と本塁に走り出す胖。と、打者はバントせず、ファウル。これが尾を引いて次々と打ち取られる。

スクイズ失敗、スリーアウト。チームもベスト16で姿を消す。四十八年後の後輩たちに比べると、あまりに早い夏の終わりだった。