第2章 医師法第21条と関連した注目事項

(1)死亡診断書記入マニュアルと医師法第20条

・判旨についての考察

2 医師法第21条について

本判決は、供述調書の内容も含め、死亡診断書と死体検案書との区別なく論述されている。また、検案についても明確な定義がなされていない。

本判決は、医師法第21条につき、「医師法にいう死体の異状とは単に死因についての病理学的な異状をいうのではなく死体に関する法医学的な異状と解すべきである」と述べ、「死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況、身許、性別等諸般の事情を考慮」と述べている。

この法医学な異状というのは、本判旨に照らせば、死体の状況、死体発見のいきさつ、死体発見場所等のことであり、いわゆる変死体のことである。病院内死亡のいわゆる診療関連死を対象としたものではないと解すべきであろう。

法医学的異状の言葉が拡大解釈・流布されて一人歩きした結果、その後の問題を引き起こすこととなったという別の意味で注目すべき判決である。

また、「死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合は別として…」との記載があり、これが、「経過の異状」説として流布された。しかし、この文脈は「経過の異状」を問題としたものではなく、「死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合は別として…」という記載内容である。

「経過の異状もない場合」は、全く問題がないとして、除外項目を述べたものにすぎない。この文脈を「経過の異状」が対象と読むのは誤読であろう。

3 検視について

本判決は、変死者又は変死の疑いのある死体があるときは警察署長は警察本部長に報告し、検察官が検視をすることと述べている。刑事訴訟法は、行政検視の結果、変死体と判明すれば司法検視が行われる旨規定しているが、これは捜査機関による捜査の端緒であり、医師に課せられた義務ではない。