4 本事案について
本判決は、死体の外表の異状について明示してはいない。しかし、死体発見のいきさつ、死体発見場所と状況について詳述しており、その結果、検案した死体に異状があったことは明白であると結論づけ、被告人の主張は採用できないとしている。
文脈からすれば、何らかの外表異状の存在を強く疑う論調とも思われる。隠された外表異状と言えなくもない。判決文にある「医師法にいう死体の異状とは単に死因についての病理学的異状をいうのではなく死体に関する法医学的な異状と解すべきである。」との判旨は、「尿毒症による心臓麻痺」との「経過」により判断するのではなく、検案時の死体の状況(「外表」)により判断すべきであると解釈できるのではないか。
このように考えると、東京地裁八王子支部判決は、「経過の異状」説の根拠ではなく、「外表異状」説の根拠というべきであろう。また、本事案は病院内で起こったものでもなく、病院敷地内で起こったことでもない。
国有林のなかで死体で発見されたものであり、診療関連死に分類するのが不適当な事案である。そのため単に国有林内で発見された変死体の取り扱いに関する見解といえよう。
・本判決と医師法第21条の関係
本判決は、異状死体の判断に際して、「経過の異状」を取り入れているといわれている。しかし、前述したように、「死亡にいたる経過についても何ら異状が認められない場合」は、問題外とした論旨であり、「経過の異状」を判断根拠としているとはいい難い。
また法医学的異状に関しても、単に死体の発見場所・状況を考慮するように述べたものにすぎず、変死体についての判断根拠である。診療関連死に妥当するものとはいい難い。
また、「経過の異状」は、東京都立広尾病院事件1審判決で取り入れられたが、これは控訴審である東京高裁により破棄自判された。東京高裁は、医師法第21条を合憲限定解釈し、「外表異状」としている。
控訴審で訴因追加がなされたことを考えれば、外表異状は、検察も認識していたことは明白である。東京高裁判決の判旨はそのまま最高裁で踏襲されている。周知のとおり、医師法第21条は「外表異状」が必須要件であると言えよう。昭和44年東京地裁八王子支部判決が、外表異状否定根拠とはなりえないのである。