第2章 医師法第21条と関連した注目事項
(1)死亡診断書記入マニュアルと医師法第20条
・医師法第21条(異状死体等の届出義務)との関係
平成27年度版死亡診断書記入マニュアルと医師法第20条但し書きについての通知、医師法第21条との関係を考察すれば、医師法第21条にいう「異状死体」とは、死体の外表を検査(検案)し異状(外表異状)を認めたものであることが明瞭である。
医師法第21条については、検案(外表を検査)して異状を認めた場合の届出義務であり、経過の異状を届ける規定ではない。即ち「異状死」の届出ではなく、「異状死体」の届出である。「死」と「死体」は別物である。これは、東京都立広尾病院事件控訴審判決が明確に指摘している。
控訴審の東京高裁は、経過の異状を根拠として死亡時点を24時間の起点とした1審判決を破棄自判し、明確に外表の異状を認識した病理解剖時点を24時間の起点とした。
また、同時に、医師法第21条が要求しているのは、異状死体等があったことのみの届出であり、これ以上の報告を求めるものではないため、診療中の患者が死亡した場合であっても、何ら自己に不利益な供述を強要するものでもなく、憲法第38条第1項(不利益供述の拒否特権)に違反することにならないと判示した。違憲判断回避のために、合憲限定解釈を行ったのである。
控訴審判決文によると、「平成11年2月11日午前10時44分ころ(死亡時点)」に、「同月12日午後1時ころ(病理解剖に立ち会った際に死体の外表を検査して検案を行った時点)」が控訴審で予備的訴因として追加されていた。
この事実をみれば、検察も裁判過程で、医師法第21条の24時間の起点が外表を検査して検案を行った時点と認識して訴因を追加したことが明らかである。
医師法第21条の異状は、「外表異状」ではないとの論調は最近では流石に影を潜めたが、「外表異状」だけではなく、「経過の異状」も該当するとの主張をする人々がいまだに存在するようである。この主張は根拠のないものと言うべきであろう。
判例、死亡診断書記入マニュアル、医師法第20条但書きに関する通知、東京地裁八王子判決のいずれをとっても結論は、医師法第21条は、検案して「外表異状」の明確な認識が必要要件と言うべきであろう。