第2章 医師法第21条と関連した注目事項
(1)死亡診断書記入マニュアルと医師法第20条
・死亡診断書記入マニュアル
前述した通り、平成7年度版死亡診断書記入マニュアルに、異状死体について、「法医学的異状」と「法医学会異状死ガイドライン参照」の文字が入ったことに加え、平成12年国立病院リスクマネジメントマニュアル作成指針の発出が重なり、医療崩壊に拍車がかかった。
しかし、国立病院独法化による国立病院リスクマネジメントマニュアル作成指針の失効と平成27年度版死亡診断書記入マニュアルにより、従来の問題点は解消した。
平成27年度版死亡診断書記入マニュアルと平成26年度版を比較すれば、平成26年度版にある「『異状』とは『病理学的異状』でなく、『法医学的異状』を指します。『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にしてください。」との記載が平成27年度版では削除されている。
さらに、「外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として24時間以内に所轄警察署に届出が必要となります。」との文章も削除されている。この一文も「異状死」と「異状死体」の区別に疑問のある文章であり、また、「経過の異状」をうかがわせる表現であったが、平成27年度の改訂により、「外表異状」によることを明確にした記述と言えるであろう。
平成27年度版死亡診断書記入マニュアルにおいては、「経過の異状」を疑わせる表現が削除されたのである。
・医師法第20条(無診療治療等の禁止)
医師法第20条は、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」としている。
このただし書について二つの通知が出されている。
【1】医師法第20条但書に関する件(昭和24年4月14日医発第385号 各都道府県知事宛厚生省医務局長通知)
表記の件に関し若干の誤解の向きもあるようであるが、先の通り解すべきものであるので、御諒承の上貴管内の医師に対し周知徹底方特に御配意願いたい。
記
1 死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、苟くもその者が診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第20条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない。
法第20条但書は、右の原則に対する例外として、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診察しなくても死亡診断書を交付し得ることを認めたものである。
2 診療中の患者であっても、それが他の全然別個の原因例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付すべきである。
3 死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである
【2】医師法第20条ただし書の適切な運用について(平成24年8月31日、医政医発0831第1号)
(各都道府県医務主管部(局)長あて厚生労働省医政局医事課長通知)
医師法(昭和23年法律第201号)第20条ただし書の解釈については、「医師法第20条但書に関する件」(昭和24年4月14日付け医発第385号各都道府県知事宛厚生省医務局長通知)でお示ししていますが、近年、在宅等において医療を受ける患者が増えている一方で、医師の診察を受けてから24時間を超えて死亡した場合に、「当該医師が死亡診断書を書くことはできない」又は「警察に届け出なければならない」という、医師法第20条ただし書の誤った解釈により、在宅等での看取りが適切に行われていないケースが生じているとの指摘があります。
こうした状況を踏まえ、医師法第20条ただし書の解釈等について、改めて下記のとおり周知することとしましたので、その趣旨及び内容について十分御了知の上、関係者、関係団体等に対し、その周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏のないようお願い申し上げます。