【前回の記事を読む】「報告書公表は制度の想定外」――医療事故調査制度で運営側が起こした、“制度の根幹を揺るがす違反行為”

第1章 医師法第21条(異状死体等の届出義務)について
―医師法第21条は、異状死の届出義務ではない―

(2)医師法第21条(異状死体等の届出義務)

医師法第21条は、「異状死体等の届出義務」として知られてきた。医師法第21条問題は、完全な法律の解釈の問題であり、臨床医にとっては重大な問題である。

臨床医にとって、患者の死亡に立ち合うのは日常茶飯事であるが、この患者看取りが、医師法第21条違反として警察の捜査対象となれば、たまったものではない。医師法第21条の届出が警察捜査の端緒となって、業務上過失致死罪に問われかねないのである。

医師法第21条の条文は「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署に届け出なければならない。」となっている。この条文の表現のとおり、医師法第21条は、「異状死体等の届出義務」であり、「異状死の届出義務」ではない。

ところが、「異状死の届出義務」と誤解して、法医学会異状死ガイドラインにのっとって判断すれば、日常診療の法的リスクが限りなく増大する。外科・産科・循環器科・消化器科等のリスクを伴う医療は、一歩間違えば、逮捕・起訴される危険があり、安心して診療が行えなくなってしまうであろう。

現に、福島県立大野病院事件では、産科医逮捕映像がテレビで流され、当時大問題となった。過去の問題ではなく、現在でも医事紛争が、刑事告訴に至ったとの話を耳にする。

用語としても、「死体」(dead body)と「死」(death)は別物である。旧字体では、「屍」と「死」を使い分けることにより、「死体」と「死亡」を区別していたが、新字体になってから「死体」と「死亡」の区別が分かりにくくなった。

医師法第21条は、旧国民医療法の時代から一貫して「異状死体等の届出義務」であり、旧法時代には、「屍」あるいは「屍体」と記載され、「死体」であることが明瞭に示されていた。

「異状死体」とは、その名のとおり、死体の「異状な状態」を示しているのであり、「死」という人間の「経過」の異常を表しているのではない。すなわち、医師法第21条が求めているのは、「異状死」の届出ではなく、あくまでも「異状な死体」の存在の届出である。