【前回の記事を読む】「先生との時間がずーっと続けばいいのに」そう言って、生徒が突然手を握ってきた。「手相を見てるだけだよ」と彼女は言ったが…
第二景 陽葵
陽葵には大人に見えるかもしれないが、そんな生活をしている俺はコンプレックスの塊なのだ。陽葵はまだ幼く、恋というものを知らず、恋に恋しているだけなのだ。
「合格までは責任を持って勉強を教えるよ。でもね、高校の数学となると俺には無理だ」そう言うと、陽葵は悲しげな表情を見せた。
俺は覆い被せるように陽葵に言った。
「俺は陽葵をT高校に合格させる仕事を請け負っているだけなんだ」
陽葵は俺の最初の生徒だ。ここで成果を出せば自分への自信にもつながる。きっと自分の生き方を見いだせる。
あぁ、なんて打算的な俺なんだ。俺は内心を見透かされないように、問題集に目を落とした。
「陽葵が高校に合格したら、それも第一志望に合格したら、楽しい毎日が待ってるはずさ。高校は中学と違って、同じくらい勉強のできる子が集まってる。同じレベルで切磋琢磨したり、知的な会話を楽しむことができる。男の子だって、今よりも大人びた子がきっといるよ」
陽葵は、俺がなんだかんだとはぐらかしていることに気づいているに違いない。そして何か更に取り繕わなければと思いながら、沈黙が続く。