「……そういうのじゃなくて……」

「陽葵はね、きっと恋に恋してるんだよ。理想の王子様を探している途中なんだよ。でも俺は理想の王子様でもなんでもないんだ」

いつも朗らかな陽葵の顔が曇る。

「じゃあ理想の王子様を探すにはどうすればいいの?」

「そうだね、『恋に憧れる、恋愛をしてる自分が好き』。そういうのを超越したときに本当の恋ができるのかも知れないね」

ぼんやりと哲学的なことを言う。

「今は疑似恋愛ってこと?」

「俺のことを好きでいてくれるのはとっても嬉しいよ」。そう言って取り繕う。

陽葵は俺が家庭教師を終え一か月もたった頃には、きっと新しい学校生活にも馴染んでいる。

今の感情が覚めた後には、何にも残らないはずだ。そんなことを考えながら、どうやって話を切ろうかと考えている。

「俺の仕事は、陽葵をT高校に合格させること、そこに恋愛感情が入り込んじゃダメなんだ」

あぁ、はっきり言ってしまった。俺は受験に影響しないだろうかと不安になる。

「ずいぶん、勉強時間を他の話に費やしてしまったね。今日はここまで」

そう言って立ち上がった。

いつもは玄関まで来て見送ってくれる陽葵が今日は来なかった。

帰り道、今日の話が頭を駆け巡る。来週が最後の授業になる。

先輩には、陽葵が俺に好意を持っていることを言っていなかった。何とか自分で解決しようとしていたのだ。もっと早く先輩に相談すればよかったという後悔が頭をもたげた。

今晩、早速、先輩に相談しよう。自然と足は家庭教師センターに向いた。

次回更新は8月12日(水)、14時の予定です。

 

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