【前回の記事を読む】「山道の外に飛び出したらまずい」…そう思った矢先に、妹は突然列を外れ、何かに引き寄せられるように野原の方へ入っていき……

第一章 生命力を支える家族

兄妹のきずな

先入観を覆す兄妹愛

見通しの良い野原なので引率スタッフも慌ててすぐに追いかけず目で追っていた。

その時だった。列の後方を歩いていた兄が妹のいる野原に向かって走っていった。

そして妹の手をつかみ、皆が一列になって歩いている一本道に引っ張って戻ってきた。

私は目が点になるほど驚き、声も出なかった。特に兄妹らしい関わりもなく、お互いを意識している様子もない。まるで他人同士のようだ、とお母さんは言ったのに、彼は野原に入っていったのが自分の妹だとすぐに気が付いたのだ。

誰に指示されたわけでもないのに、間髪を入れずに行動を起こしたことにも驚いた。

自閉症は他者を意識することや気遣うことなどの情緒面が弱いと言われることが多いが、その時の、その場面は全く通説を覆すものだった。

無関心を装いながら兄は妹を気にしていたのだ。まさか兄妹愛を目撃しようとは思わなかった。たまたまかもしれないが、凄いことを発見した気持ちだった。

二人のそばに行き、妹を叱ることなく、兄を褒めることもなく行列に戻し、何事もなかったようにプログラムの「森の探検」を続けた。

一泊二日の夏合宿は無事に終わったが、お母さんには休息が取れたかどうかは聞かずじまいになってしまった。