【前回の記事を読む】満腹になっても食べ物を求め続ける里子の女の子…養母が過去の飢えを疑うなか、実の母親は「引き取りたい」と言ってきて……
第二章 熟慮の決断
置かれた場所で咲く
いじめから不登校に
お母さんは男児より育てやすいと言い、男の子とはまた違った可愛さがあるようで話す時の表情にも違いがあった。
彼は小学校六年になると中学受験をすると言って、進学塾に行くためにこばとをやめた。養父母は、こちらが恐縮するほど丁寧な挨拶をしてくれた。
たくさんの子どもが長いことこばとに通ってきていたが、やめるからと言ってそんなに丁寧な挨拶をしてくれる親御さんはあまりいなかった。私的療育施設なので、ほとんどはあっさりした挨拶だった。
彼が中学受験のためにこばとをやめてから音信は途絶えていたが、ある日、お母さんから突然の電話があった。
お母さんは電話をかけた理由を話しだした。暗い声だった。
彼は受験では無事志望校に合格した。希望の私立中学校に通うことができるようになった。だが半年もたたないうちに、学校で同級生からいじめを受けた。
確かに小学校時代、彼は知的には問題なく、言葉の理解も学年相応であったが、共感性に乏しく友達ができにくかった。独りよがりで、マイペースなところがあった。
受験から解放された多感な年頃の少年達が集う中学校には、彼には分からない空気感があったのだろう。
体を傷つけられたわけではないが、いじめを何回か受けると不安感が強くなって不登校になった。部屋に閉じこもることも多くなり、親とは話をしたがらず態度も拒否的になってきたと言う。
そう話す電話口のお母さんの声は沈んでいた。
彼は小学校時代、お母さんに対して度々嘘をつくし、都合が悪いことには言い訳が多かった。過去の記憶のせいか、養父母には分からないトラウマがあるのか、被害妄想的な言動もあってお母さんを悩ませていた。そのことは面談の度に相談された。
自閉スペクトラム症の範疇にいる彼の特性も、私立であればそのあたりは学校側の配慮もあって守られるだろう、と養父母は期待し本人も望んだので中学受験させたのだったが、裏目の結果になって、後悔している口振りだった。
彼はいじめられたことがきっかけで、その傾向がさらに強くなってしまったようだとお母さんは言った。