【前回記事を読む】突然「ちょっくら散歩いってくるわ」と言い出した祖父。防寒にしては“変”な格好だし、こんな真冬のこんな時間に…?
Case:B 元・医者の選択
「その流れでなんでワシの家に来てるんだ、お前は」
「いやぁ、それがよぉ。外が予想以上に寒くてなぁ」
「そのまま凍死しちまえ、馬鹿者」
意気揚々と飛び出した良三は今、景浦と共に囲炉裏を囲んでいる。寒い寒いと言う良三に夕飯の残りである豚汁を分け与えたようだ。脇には火鉢も控えており、至れり尽くせりだった。
「そもそも真冬の夜に散歩って、どういう頭してるんだ」
「ハッ。こういう頭をしとります」
そう言って航空頭巾を脱いで禿頭を見せる良三。呆れた景浦はその頭を叩いてイイ音を奏でた。
「まったく、なんでワシはこうも世話を焼いてしまうのか……」
「人の性格は一生変わらねぇよ。それよかせっかくだから一緒に酒でも呑もうぜ」
「やれやれ……」
嫌なら断ればいいのに景浦は台所に行って日本酒を持ってきた。なんだかんだ言いながら老人の一人暮らしは寂しく、心の隙間を埋めてくれる良三を嫌いにはなりきれないのだ。
「あんまり呑みぎるなよ」
「お、サンキュー」
「お前、今日はもう泊まっていけ。酒を飲んだ老人に十二月の夜道は歩かせられん」
「あぁん? 平気だよ。それよか雄作。そこの戸、閉めようぜ。さみぃ」
「バカ言え。囲炉裏に加えて火鉢まで焚いてるのに閉め切れるか。一酸化炭素中毒で死ぬぞ。ワシなんか暑いくらいだ」
「はは、さすが名医は詳しいなぁ」