【前回の記事を読む】彼の母から初女王の座を奪い、叔父を弑した――私は厩戸皇子に恨まれているだろうか。だが彼はそのことに一切触れず…
第一章 「消えゆく光芒」
額田部女王 × 蘇我馬子
しかし、飛鳥を離れた太子の真意はどこにあったのか。
辛酉の年にあたり、自らも今までの境遇から抜けて斑鳩の地で、太子の思い描く大王を中心とした枠組みの新しい倭国を描こうとしたのか。
それこそ太子自身が望んだ革命だったのであろうか。
さらに女王には思いいたることがあった。
宮を移したいと最初に申し出のあったのは我が子の竹田が亡くなった直後であったわ。
その時の厩戸は確かとした物言いでありながら眼は何故か寂しく遠くを見つめているようであった。
「そうか、厩戸は大王位を継ぐのを避けたのか。そうに違いない」
太子の称は受けながら後嗣をめぐっての争いを見ることは厩戸には耐えられず、自己の思う道を迷いなく全うしたかったのであろう。
さらに厩戸には分かっていたのだ。我の跡継ぎへの願いが最後まで竹田にあるのを。
今思えば厩戸は周囲の期待を十分に感じながらも当初から大王になる気はなかったのだろう。さぞ苦しい想いもしたであろうな。我は痛ましくてならぬ。
確かに太子はたびたび斑鳩から通ってくれて我の政を援けてくれた。政に関しては、太子は自身の考えは確かと持ちながらも、我ら周りの者の願いも全て受け入れてまとめ上げる度量の大きさを持っていた。
ただ時折、宮で一人になると常に階に座して西の空を眺めていた。
あこがれていた隋に想いを馳せていたのか、それとも我が国の行く末をいかにすべきか思案をしているのかと思っていたが、おそらく朝廷での自分自身の身の処し方を探っていたのだろう。
哀しいことよのう。