蘇我大臣馬子は額田部女王の話を黙って最後まで聞くと深く頷き、いつになく優しいまなざしを女王に向け、
「お互いに歳をとったものですな。それでは我と太子の話も聞いてくだされ」
馬子は眼を遠くにやると、厩戸王子との思い出を掘り広げていった。
我が厩戸王子と初めて深くかかわったのは丁未(ていび)の乱に王子が十代半ばにして他の王子たちと従軍した時であった。
名にし負う武威を誇る物部守屋(もののべのもりや)の兵はすこぶる強く、我らが王族と諸氏族の軍は兵数こそ多くとも寄せ集めで弱く、三度も兵を引かざるを得ない不利な戦いであった。
そのような物部に勝利するために我は日ごろ信仰している仏に頼り、勝利のあかつきには立派な寺を建立しようと祈願をしたところ、厩戸王子も我に合わせて稚拙ながら木彫りの四天王像を作り我とともに祈ってくれたのだ。
幼いながら一途に仏を信じる健気さと、自己の所作で周りの者たちも奮い立たせる効き目を期待する王子の聡明さに喜びと驚き、そしていくばくかの畏れを感じたことも覚えている。
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