「若菜はいつから医者を目指そうと思ったんだ?」

「小学校の……三年生くらいの時かな。おじいちゃんが肺炎をこじらせて入院したことがあったじゃないですか」

「そんなこともあったなぁ。アイツ、ただの夏風邪だとタカを括ってたせいで悪化したんだった」

「ですよね。ホント困ったおじいちゃんです。夏休み中だったから何度も見舞いに行かされちゃったし。でもそのお陰で入院患者さんの回診をしてる景浦さんを見ることができました」

「その時のワシは……若菜の目にはどう映った?」

おそるおそる訊ねてみると若菜は恥ずかしそうに俯いて「カッコ良かったです」と言った。

「ほ、本当か?」

「はい。見た目はちょっと厳つくて昭和の映画俳優みたいな感じでしたけど患者さんたちには凄くフランクに接してましたし、若い人からも親しまれてたから『いい人』なんだってすぐに分かりましたよ」

「そうかそうか」

「でもいつ言い出そうか、ずっと迷ってたんです。ウチってお金に余裕があるわけじゃないし。っていうか正直貧乏ですし……。奨学金を頼るにしてもあれってただの借金じゃないですか」

「確かにな。ワシでもあれは勧められん」

「でしょ? だからどうしようかなって。国立大に受かればいいですけど、どのみちおじいちゃんとおばあちゃんには医学部を受けるって言わないといけないし、もう中二の冬休みも近いんだから迷ってる時間はないなって」

「それで思い切って打ち明けたわけか」

納得した様子で景浦が尋ねると若菜は静かに頷いた。心なしかまだ自信がないような控えめな所作ではあるが。

次回更新は4月25日(土)、11時の予定です。

 

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