一方の景浦は現役時代に充分な金を稼ぎ、生真面目な性格も手伝って浪費することもなく、一足先に天国へ旅立った妻・花が管理にうるさい性質だったため、私立の医学部へ通わせられるだけの貯蓄は十二分にある。

そのお陰で死んだ金が口座に眠ったままだ。天国に金は持っていけない。であれば金は今を生きる人間に投資したい。しかしそう申し出たところで良三が素直に受け取るだろうか。こちらから言ったところで素直には受け取らないだろう。

景浦は先ほど『早とちりするな』と言った。しかし心はもう決まっている。顔には出さなかったが、若菜が自分に憧れて医者を目指すと伝えられた時はやはり嬉しかった。

「ワシも若菜みたいな孫が欲しかったよ」 

 

「景浦さん、こんにちはー」

翌夕、学校から帰った若菜は制服姿のまま景浦の自宅を訪れた。若菜が姿を見せると池で優雅に泳いでいる鯉たちが心なしか元気になる。時々餌をくれる若菜に懐いているのかもしれない。

「おかえり、若菜。よく来てくれたね」

「おじいちゃんから言われたので。でも話ってなんですか?」

「君の将来についてだよ」

「将来?」

「あぁ。医学部に行きたいんだろう?」

若菜は驚きと共に「知ってたんですか?」と目を丸くした。

「まぁ、な。良三に教えてもらっただけなんだが」

「おじいちゃんってば本当に口が軽いんだから……」

若菜は唇を尖らせながら縁側へ腰掛けた。景浦もそれに倣って隣に腰を下ろす。