「ではあなた様はスーパーマル得の社長さんで……」
「みんなわしをそう呼んでるようだな」謙志郎はあまりのことに次の言葉が出なかった。
「そんな偉い方が何で私のような者に」やっとの思いで言葉を絞り出した。
「君に興味を持ったからだ。命にももらい方があるからな。わしがわからんのは、万引きを止めた君が何で人を刺そうとしたかだ。あの男に恨みでもあったのかね」
「いえ、あの男とは会ったこともありません。昼間から酒を飲むような者は社会のゴミと思いましたから掃除してやろうと……」
「では万引きを止めたのは?」
「私は盗みなど嫌いなんです。ただ、なんせ腹が減っていましたから。けど殺しで捕まれば、取り調べの時、警察でカツ丼を食べさせてもらえると思うと……」
男は噴き出しそうになるところを何とか堪え、
「だが、そんなことをやれば君は前科者だぞ」
「私は少年院かムショに入り、悠々自適の人生を送ろうと固く決心し、昨日臨時列車で東京から出てきたのです」
「それは大変なことだったな。残念ながら君に人殺しはできない。血を見ただけで卒倒するのが落ちさ。何よりその目が物語っている。そんな澄んだ目を下らんことで汚すんじゃない。ご両親に申し訳ないぞ。よかったらなぜそんな気になったのか聞かせてくれないか。わしに命を預けると思ってな」
低い男の声は、一句一句若者の腹に染みこんだ。
次回更新は8月26日(火)、21時の予定です。
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