【前回の記事を読む】生まれてきた赤ちゃんの泣き声は、蚊の鳴くようなか細い声だった。——その後、寝たきりの状態で6年がたち…
第4章 一人になった珠輝
身の置き所のなくなった珠輝
珠輝には何故かそんな祖父の態度が子供心に引っかかった。珠輝の家ではこの頃から金銭を巡って朝食時の夫婦喧嘩が日課となった。これには父にも大いに責任があるだろう。
いくら客商売とはいえ、昼近くに家を出て夜中近くに帰ってくる。その実稼ぎは少なく祖母たちによりかかるような生活態度だったようだ。今なら珠輝も母の立場に立てるのだが、当時はたまったものではなかった。
それが元で母と祖父母との争いにも発展し、とばっちりを受けるのは珠輝だ。富子の家で祖母が注(つ)いでくれたご飯を食べているといきなり来て怒鳴られたり殴られる。
また、もっと始末が悪かったのは母の呼び声が聞こえなくて返事をしないとおもいっきり両方の耳を引っぱり、「この耳は聞こえんとね。」というが早いかげんこつの雨。泣きながら何を手伝えばよいのか尋ねると、
「もうあんたにしてもらうこといらん。」
こうなるとしばらくはいくら呼んでも母は返事をしてくれなかった。
このような母の言動は妹の誕生から酷くなっていった。見えない子供にとって母の言動がどれだけ過酷だったかご理解頂けるだろうか。
さらに吐き捨てられた言葉に「出来損ないに死に損ない。」二人の障害児を抱えた母にとって怒りのはけ口がなかったのであろう。だがこの言葉は珠輝の心に突き刺さった。
ここまで母のことを書き出した珠輝はなんと底の浅い人間だろう。しかしここで母を弁護しておこう。