【前回の記事を読む】妹が悪くてもいつも罰を受けるのは私だった。喧嘩をすると母は私をひっぱたき、風呂場に連れて行かれ…

第4章 一人になった珠輝

子供たちが手に入れた丸山公園

珠輝の祖父、丸山長太郎は手先が器用で子煩悩だった。彼は孫たちのため屋敷内にブランコや滑り台や砂場を造り、数々の草花を植えたり芋や豆を作って収穫時期には富子と珠輝を楽しませてくれた。おかげで珠輝は芋類の収穫の経験や草花の名前も結構知る事ができた。

学校や施設では知る事などできなかった事を体験させてくれた祖父には感謝にたえない。そんなよい場所を子供たちが放っておくはずがない。

何とか遊び場にできないものかとリーダー格の子供は虎視眈々と入り込む隙を狙っていたようだ。富子に近付けば良さそうなものだが彼等にとって彼女は少し幼すぎるか、あるいは他の子供と違いしっかりした身なりにいささか気後れしたのかも知れない。

そんなおり、悪ガキどもの珠輝へのいじめは彼女らに絶好のチャンスを与えた。リーダー格の子が何人かの子を引き連れて珠輝の母や祖母の所にご注進にやって来た。

それによると首謀者は炭鉱師の息子で安田俊介という珠輝より年上の子だった。父親の安田は村でも名士で頭が切れたが酒癖が悪く、そのため他の者たちはできるだけ彼との関わりを避けていた。

子供とは実に正直な者で、珠輝がいくらいじめに遭っていても見て見ぬふりをしていた大人たちの名前までご注進してくれたのだ。

そうなると珠輝の母にせよ祖母にせよ、「珠輝の所に遊びに来てやってね。」そう言わざるを得ない。

その一言を子供たちは待ち構えていたのだから、それからというもの彼等は堂々と丸山公園への出入りが自由になった。

そうかといって、両親たちも安田に抗議する事も全くなかったのだから、珠輝は子供たちに利用されたに過ぎなかった。だが正義感が強い子がいたところで相手は年上の男の子ばかりだったから太刀打ちできなかったことも否めない。

ややよかったことは子供たちが一緒に遊んでくれたことくらいだろう。そのうち珠輝は自分には兄弟がいないことに気付いた。

ほとんどの子供たちが兄弟を連れて遊びに来て、誰かがある子をいじめようものなら兄か姉がその子にやり返すのだ。

そんな頼もしい兄姉が珠輝にも欲しかった。舐めるように可愛がられている富子にはおよそ喧嘩などとんでもないことだ。だがそんな泣き虫富子が幼いにもかかわらず泣きながらでもいじめを受けている珠輝を連れ帰ってくれた事には感謝に堪えない。

もし富子に置いていかれたなら珠輝はどうなっていただろう。取り返しのつかない怪我をさせられたところで両親たちは腰抜けだったろう。めそめそ富子こそ正義感の塊だった。