身の置き所のなくなった珠輝

やがて珠輝に兄弟が生まれることになった。それを聞かされた彼女は毎日早く生まれて欲しいと願った。昭和二十九年一月下旬、もうすぐ赤ちゃんが生まれると聞いた珠輝は生まれた時の第一声を聞こうと待っていたのだが、いつしか眠っていた。目を覚ますと家の中は何故か不気味なほど静かだった。

赤んぼうの泣き声も聞こえないので「婆ちゃん赤ちゃん産まれたと。」「生まれたよ。」祖母は珠輝を母の枕元に連れていった。

だが赤んぼうの泣き声は珠輝が聞いていたようなものではなく、蚊の鳴くような何ともか細い声だった。珠輝は驚いた。

「赤ちゃんの声は何でこんなに小さいと。目が見えると。」

「この赤ちゃんは弱いから大きな声が出せんとよ。おめめは珠輝と同じよ。」

珠輝は愕然とした。まさに聞いてはいけないようなことを聞いたような複雑な気持にさせられた。

「おめめは珠輝と同じよ。」

そう応えた母の寂しげな悲しげな声は今も耳に残っている。綿に包まれた小さな頭。彼女の顔をそっと触り目の所を見た珠輝は自分もこのような状態で生まれたことを確認できた。

未熟児で生まれた彼女は小頭症に未熟性隠復症という三重苦を背負って生まれてきたのだ。そのため母の乳房に吸い付く事ができなくてミルクで育てなければならなかった。

彼女は離乳食もパン粥か軟らかい雑炊しか食べることができず、母は一時間近くかけて食べさせた。だがミルクは離せなかった。話すことも歩く事も見ることもできず、寝たきりの状態で六年の生涯を閉じた。

それも母が看護婦と助産婦の資格を持っていたからこそあの当時自宅で育てることができたのだろう。妹を身ごもった母はこの子は弱い子だと確信していたという。母は病院を予約していたのだが長太郎がそれを阻止した。

「珠輝が可愛そうだからそないなことすな。」

そう言って止めた。

父の実馬といい母の父といい何故こう逆な結果ばかりが出たのだろう。その度に珠輝の名前が引き出されるのだからたまったものではない。だが珠輝は祖父を恨む気にはなれない。

彼こそ珠輝の事を誰よりも心配してくれた人と信じるからだ。だが彼も赤んぼうを見てあ然としたそうだ。妹は恵子と命名された。

だが珠輝は祖父が恵子を一度でも抱いてあやしているところを見たことがなかった。

次回更新は12月13日(土)、20時の予定です。

 

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