だが、それからの珠輝は学校に行けないということが恐怖になっていった。同年齢の子は揃って学校に行くというのに自分だけは行けないのだ。
そうでなくても母に近所の主婦が、
「お宅は珠輝ちゃんと恵子ちゃんで大変でしょう。」
「そうよ、うちは双子といっしょで手が要る、手が要るねえ。」
それが母の口癖だった。さらに、
「桐島さんとこの雄三君は頭がよくて級長になったそうよ。親は土方(どかた)でもあんな子がいたら楽しみやろうね。」
母はこんな話をよくしたものだ。ところが珠輝は雄三君など知らないから、
「お母さん、そんな人遊びに来たことがないから知らないよ。」
「雄三君は賢いからお勉強が忙しくてあんたのような者と遊ぶ暇などあるもんか。」
これが落ちだった。幼心にも家では必要とされていないのだと思うと珠輝は悲しかった。自分なりにいくら手伝っても褒められることもなく、あるのは母の拳固と小言の雨。さらには無言の無視。
いつしか珠輝は自死を考えるようになった。
珠輝の家の側に用水池があり、そこに飛び込めば死ねるのではないかと思った。
次回更新は12月14日(日)、20時の予定です。
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