【前回の記事を読む】昼間から酒を飲むような者は"社会のゴミ"。殺して捕まって、少年院かムショで悠々自適な生活を送ろうと…
第四章 サンタクロースが桜木家に
三
謙志郎は桜木と名乗った男の顔をじっと見つめた。
「もし父親がいたならば、この男よりもう少し若いのだろうか。一度は自棄になった身だ。父親のつもりで、この人に自分をさらけ出そう」
謙志郎は居住まいを正し、
「お世話になりましたお礼というのもおかしいのですが、まずは一昨日からの出来事からお話しいたします。私は捨て子で両親を知らない身です。栃木県の塩原にある、『希望の家』という施設から中学に通い、二年前に卒業し、東京の寿司屋に住み込みました」
こう前置きして、彼は一昨日の出来事を話し、先輩の恨(うら)みを買うことになったいきさつも話した。
「そんなことがあったのか。あきれた先輩たちだなあ。さぞ悔しかったろう」
桜木は目頭を押さえた。正義感の塊のような少年には、あまりにも理不尽な仕打ちと言えよう。桜木はさらに続けた。
「君が店を飛びだした気持ちはよく分かる。だがな、酷なことを言うようだが、君も店にとんでもない迷惑をかけたんだよ。商売人というのはいかなることがあろうと取引先、つまりこの場合は客だ。そんな人に対し、自分の店の恥をさらすようなことは決してやってはいかんのだ。
人は勝手なもので、君の前ではいかにも同情的態度を見せるかもしれないが、他で何をしゃべるか分かったものではない。そんな下らんことが、君の人格にも影響し、次の仕事を見つける上にもマイナスになるんだよ。世間に出て金を稼ぐというのは辛抱の連続なんだ。君にこんな説教を垂れているが、わしも何度自棄になりかけたか……。わしの言ったことが分かるかね」
「貴重なご助言ありがとうございます。あなた様の教えを肝に銘じ、身を粉にしても働く所存でございます。こんな私ではございますが、どうかお店の末席に加えていただけませんでしょうか」