【前回の記事を読む】殴る、蹴る、さらにタバコの火を押し付ける者も…。給料泥棒の罪をなすりつけられた彼の生活は地獄だった

第四章 サンタクロースが桜木家に

昼食時はとっくに過ぎているにもかかわらず、店内はかなり混んでいた。やや奥まったテーブルに謙志郎を招き、男も彼の向かいに腰掛けた。

「大盛りチャーシューメンといつものやつをな」

二人は向かい合ったまま、終始無言だった。注文の品が運ばれてくると、男は大盛りチャーシューメンを謙志郎の前へ置くよう目で示し、箸を取るように目をやった。彼は男に一礼して箸を取った。

「う、うめえ」

謙志郎の口から思わず声が漏れた。

「うまいだろう。この店は博多でも一番なんだ」

きょとんとしている謙志郎に、

「この店は博多じゃあより抜きってことさ。なあ大将」

「恐れ入ります」

店主の返事が終わる頃には謙志郎のどんぶりは空だった。

「大盛りチャーシューメン、もう一杯」

男は再び注文すると、自分のどんぶりに箸を運んだ。二杯目のチャーシューメンも謙志郎の前に置かれた。今度も一礼して箸を取った。

謙志郎が食べ終わると男は立ち上がり、再び一緒に来るよう誘った。今度は謙志郎がついてきていることを無視するかのように、目をくれようとはしなかった。彼は男から逃れることもできただろう。だが、なぜか男に従うことにした。