視床下部
脊髄からの情報及び脳幹を経た情報は、大脳の一部である間脳にある「視床下部5」にも送られます。
視床下部は、平常時は体温・呼吸・血圧・代謝・睡眠といった生命維持のための「生体の内部環境の維持(ホメオスタシスといいます)のための総合機能」を担っています。緊急事態発生時には脳と体全体を総動員するような指令を発します。下行性疼痛抑制の適応的意義は侵害感覚の脳への伝達を弱めて「平常活動への復帰」を促すことと思われます。
体が生存の危機に直面したような状態では、視床下部から副腎を刺激するホルモンが分泌され、副腎からはアドレナリンが分泌されます。アドレナリンは大量に分布された場合には痛みを抑制する作用があります6。
視床下部は体組織からの情報(内感覚)だけでなく、視覚・聴覚など環境からの情報(外感覚)‐をも受けて、体組織の維持管理と危機管理を行っています。こうした視床下部の役割は会社組織ではやはり《総務部》《危機管理部》にたとえることができるでしょう〔図3〕。
視床内側部
脊髄からのもうひとつの古い経路である旧脊髄視床路を経た情報は、脳幹を通過して大脳の一部である間脳の「視床内側部」にも送られます。
視床内側部からの情報はそこから大脳の情動処理部門(大脳辺縁系)に送られます。視床内側部は単なる中継点ではないと思われますが、侵害受容感覚処理における役割はよくわかっていません。後述するようにおもに痛みの情動処理に関わっていると思われます。
【ポイント】
・脳幹と視床下部は体すなわち《会社》組織における《総務、財務、危機管理部》のような存在です7。体を維持管理していくための極めて重要な部門です。
・脳幹の機能により大脳《本社》の活動が活性化されたり、脊髄《支社》へ抑制がかけられたりします。活性化や抑制のために脳幹の神経細胞は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリンなどの神経修飾物質を放出します。神経修飾物質は神経細胞の活動性を調整する(高める/抑制する)役割をもっています。
・脳幹と視床下部は侵害警報を受け取ると、状況によって痛みを強めたり、逆に弱めたり、脳の覚醒度を高めたりしています。
・脳幹、視床下部、そして視床内側部に送られた信号は、処理を経てから大脳の情動処理領域に送られます。