こうしてするのが一番いいのだろう。目がくらまずに、物事がはっきり見える。これなら結婚したあと、うっとりする喜びもない代わりに、歓喜につきものの失望もないように思う。

堅実で長持ちする〝なんとなく幸せ〟な家庭が築かれることだろう。それで十分だ、と半年以上迷い悩んだのちに考えが落ち着いた。

そして、こちらが誘導してそんな雰囲気を作ってやらないと、いっこうにプロポーズする勇気のない山川を助けてやって、照れ笑いに紛れたその求婚を、こちらも笑いながら受けたのだった。

理緒子にどう話したものか、と暮れには迷っていた。なぜか言い出しにくかった。で、先の年賀状に「今年、結婚します」と書き足したところ、数日後に電話がかかってきたのだ。

理緒子に越前のことはグチグチと聞いてもらったが、山川のことは話してこなかった。

話の中に登場はしても、あさみ自身そう思っていたように、あくまでも脇役としてだった。

だからその電話でも、「越前のやつが言ってきたの?」と、理緒子の口から真っ先にその名が飛び出した。

次回更新は8月8日(金)、22時の予定です。

 

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