【前回の記事を読む】32歳独身男性。きっと憧れの少女像を自分で勝手に作り上げて、彼女の本当の中身はまだ全然わかっていないんだ…

2章 一本道と信じた誤算

「そうじゃないの」

「まさか、あんたのほうから?」

「とんでもない。あのね……越前さんじゃないの」

「へえ……ほかに好きな人がいたんだ? あたしに経過報告もなしに?」

「しなかったというか、しそびれたというか……」

「で、誰なの?」

山川の名を明かすことにためらいがあったのは、越前という名に比べて平凡だから、と頭の中でこじつけていた。

「ちょっと、あさみ。あんたに会いたいわ。たしか新年のパーティーがあるって言ってたわね。いつだったっけ?」

とうとうあさみも結婚するのか、と友達として感じるところがあって会いたいと言ってきたものと、このときには思っていた。

「来たって踊れないのよ、アスダンスというのは社交ダンスと違って――」

「いいから連れてってちょうだい。ほんとにあんたに会いたいんだってば。そいつも来るんでしょ? ちょうどいいわ、あたしに紹介しなさい。あたしが〝見て〟あげる」

 

 

「おっと!」

ワルツの連続右回転の最中に山川があさみの足を踏み、転ぶまい、と踊りを止めて互いに支え合った。

そこへ後ろのカップルが回転を続けて、ドン、とぶつかってきたため、あさみと山川は仲良く抱き合ったまま床に転倒した。

大笑いをし、いたわり合い、手を取り合って起き上がり、そうしながら体のいろいろな所が触れたことに照れて、二人とも顔を赤らめた。