【前回の記事を読む】「〝あんたが要らないならこっちがもらうわ〟談判ね」否定したものの、少女に見向きもされない彼に心が舞い上がるのを感じていた

2章 一本道と信じた誤算

その後、少女は自分で手紙を書いて越前に出したようだ。なんと書いたのか知らないが(あさみは尋ねなかった)、例会場で越前と少しずつ話をするようになった。

それからだんだん、差し出された手に応えてパートナーとして進んで立ち上がったり、一緒に楽しそうに帰ったりし始めた。

ライバル意識に目覚めて、あさみを苦しめるためにわざと芝居をする、そんな悪女の知恵があの天真爛漫な少女の頭に突如芽生えた、などとは考えにくかった。

見方を変えれば好きになることもできるのだ、と目の当たりにしたことが、大人の男性は怖いものだという幼い観念から、少女の心を解き放したのかもしれない。

そして、自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、あさみの気持ちを思いやるというところまでは、まだ考えが行き届かない――そう考えるほうが自然で、またこちらの気持ちも楽だった。

あんな子供がいいだなんて、価値のない男だったんだ、とあさみは心の中で、失恋を相手への幻滅に置き換えようと努めた。

『姫君へ、騎士より』だなんて、32にもなって、なんて甘助(あますけ)なんだろう。きっと憧れの少女像を自分で勝手に作り上げて、彼女の本当の中身はまだ全然わかっていないんだ。

わかったら失望するに決まってる。だってまだ全然子供なんだから。だからといって、そのあとこっちに来たって、もう遅い。こっちは心底がっかりしてしまった――。

あの少女を思いやりがないといって非難する資格は、あさみにはなかった。なぜなら山川に自分のこの失恋を物語って聞かせたからだ。