山川と女友達一人をお茶に誘い、少女を別サークルの知らない匿名女性とした上で大まかに語った。
山川は、うん、うん、と相槌を打ちながら、隣の女友達よりも熱心に、親身になって聞いてくれた。ただ彼はその喫茶店にいた3時間のうちに、十数回もトイレに立った。
「どうしたんだろう。おかしいなあ、こんなこと初めてだよ」
そう首をひねって笑いながら帰ってくるので、あさみも笑って話の続きに戻り、山川の心中を察しなかった。
駅で別れたときに彼の後ろ姿を振り返らなければ、最後まで察しなかったかもしれない。さよならを言い合い、手を振り合って少し歩いてから、あさみはふと振り向いた。そして、肩を落とし、下を向いてとぼとぼ歩いていく山川の姿を見た。
「落ち込んじゃだめだよ。あさみの良さがわかんないなんて、男じゃないよ」
そう言ってあんなに明るく慰めてくれたのに、しょんぼりして寂しそうだった。駅の雑踏を行きながら、よけることもせず人にぶつかり、肩を当てられて体を振られていた……。
山川との間には、これまでだってドラマチックなものは一つもなかった。ただあさみが自分の胸の内で考え、思い悩み、彼との結婚を決意した、というだけの話だ。
越前に感じたようなときめきも、感動も、夢もなく、現実的に将来の家庭像を頭に描いて決めた。言ってみれば計算ずくの婚約だ。結婚とはこんなものなのだろう。