【前回の記事を読む】無垢な外見からは想像できないほど〝女〟へと急速に変貌してしまった少女。キッ、と眉を逆ハの字にして私を睨みつけた
2章 一本道と信じた誤算
そんな侮辱的なことを言われても、別に腹も立たなかった。ただ口をつぐんで少女の攻撃的な文句を黙って聞き、成長するにつれて失われていくものがどんなに貴重なものかを、改めて考えさせられていた。
傷つき、泣きながら少女はダンスをやめていった。越前のほうは悪いことをしたと思っていないようだ。
内心はいざ知らず、少なくとも見た限りでは、少女が退会して出ていくまで姿を見せず、ほとぼりが冷めたころ何食わぬ顔をしてやってきた。
周りの者もまた、越前にのぼせて独り相撲をとっていた女の子がついにあきらめて去っていった、ぐらいにしか考えていない。
最初の釣り糸となった越前の罪な手紙のことを皆にばらして回ろうなどとは、あさみも思わない。この恋の破滅を利用して、彼にこちらの価値を誇示しようとは、さらに思わない。
そんなわけで、サークル内を見れば越前の地位はいまだ安泰であり、今夜は、パーティープログラム後半の盛り上がる花の時間帯に彼の講習が組まれている。
女性陣の憧憬の視線を集めながら、彼はいま正面壇上近くの席に控えて準備万端といったところだ。
短い休憩時間にその越前が何気なく立ち上がり、座っているあさみのそばへブラリとやってきた。そしてやみくもにこう言った。
「僕は、こんなことは嫌いだ」