赤べえは舟に乗り込んで、勢いよく櫓をこぎだした。
さて、鬼ヶ島では、当番の青鬼が、小手をかざして沖をみはっていた。そのとき、一艘の舟が、飛ぶように島にむかってくるのがみえた。この島に人間の舟がやってくることなぞ、いまだかつてなかった。おどろいてみていると、ひとりの男が櫓をこいでいて、その頭には、つのが生えているようだ。
青鬼はしばらくじっとみていたが、とつぜん大声でさけんだ。
「赤べえだ! 赤べえが、もどってきたぞ!」
ドラの音がひびいて、鬼どもが船着き場にあつまってきた。
赤べえは、大きなつのをふりたてながら、肩をそびやかしておりてきた。
鬼どもは、赤べえのつのが、以前よりも太く、りっぱになっているのをみて、うらやましくてたまらなくなった。
「しばらくみないうちに、つのが、えらくりっぱになったなあ。いったいどこで、どんなものを食って、そんなになったんだ」
「おまえさんの留守のあいだに、おかしな人間がきてよ、おいらは赤べえだなんていうもんだから、みんなで追いだしてやったぜ。てっきり、おまえを食い殺したと思ってな。どうだい、仲間というものは、ありがたいもんじゃないか。それにしても、どこにいっていたのさ」
やつぎばやの問いかけに、赤べえは、つまらなそうにこたえた。