それから林のなかを歩きまわって、松ヤニをいっぱいあつめてくると、それを口にほうりこみ、ニチャニチャとかみだした。
ヤニが口のなかでとけてネバネバしてくると、それを頭の、つのがあったあたりに、まんべんなくぬって、その上に、あの二本の枝をしっかりと押さえつけてのせた。それから頭をなんどもふって、枝が落ちてこないのをたしかめると、トラの皮のパンツのゴミを勢いよくはらって、林をでていった。
浜では、村人たちがおおぜいあつまって、網をひいていた。網のなかで、魚がはねている。
赤べえは大股で近づくなり、低い声でいった。
「いい魚じゃないか。おれにもわけてくれ」
「ヒャーッ、鬼だ、鬼がでたーっ!」
人々は、クモの子を散らすように逃げていった。
赤べえは網に手をつっこんで、思うぞんぶん魚を食った。ようやく腹がふくれると、網をびりびりに引き裂いて、魚はそのまま地面にほったらかしておいた。
しばらく歩いていくと、舟をだそうとしていた漁師がいた。その船に近づくと、両腕を高くあげて、われ鐘のような声でどなった。
「やいっ、その舟、よこせ! さもないと、命はないぞ!」
ふりむいた漁師は、大きなつのをはやした鬼が、今にもつかみかかりそうな姿で、目のまえに立っているのをみて、ふるえあがった。
「ど、どうか、命だけはお助けを……」
やっとこれだけいうと、あわてて逃げだした。