【前回の記事を読む】「おれをとって食うだと? ふざけるない。この鬼のなりそこないめ!」力尽きた赤べえは人間の漁師たちに痛めつけられてしまった…

つのを折った鬼

「なに、ちょっと人間世界で息抜きをしてきたのさ」

さっそく祝いの酒盛りがはじまった。鬼どもは燃えさかる焚き火をかこんで、飲めやうたえの大騒ぎだ。

赤べえも、うかれておどりだした。

“ハア、人間世界じゃヨ、

鬼は とのさまヨ

わしがつのみりゃヨ、

天子さまでも にげまどうヨ”

“ハア 人間世界じゃヨつのは とのさまヨつのを みせればヨ

金も宝もとんでくる”

 

「ワーハッハッハ まったくだ!」

「ワーハッハッハ こりゃゆかいだ!」

鬼どもは手をたたきながら、カミナリのような声で笑った。するとその声にさそわれるように、まっ黒な雲が空の片すみにあらわれて、たちまち空をおおいつくし、大粒の雨がたたきつけるように降ってきた。

赤べえはあわてて仲間たちといっしょに、近くのほら穴に逃げこんだ。雨は激しく降りつづき、勢いよく燃えていた焚き火もきえて、ぐしょぬれの頭が芯まで冷える。

「ううーっ、寒い。ちくしょう、せっかくの祝いだというのに」歯をガチガチいわせながら、頭をぶるっとふった。すると、パリンという音がして、頭がすーっと軽くなった。おどろいて頭に手をやると、またパリンという音がして、つのが手のなかにころげ落ちてきた。

鬼どもは、そのようすをふしぎそうにみていたが、とつぜん、どんべえがわめいた。

「ややっ、こいつは赤べえじゃないぞ。あのときの人間だ! 赤べえを殺した下手人だ!」

「そうだ、雷光の一味だ! やい、赤べえをどこにやった!」黒べえも立ちあがった。

「ち、ちがう、おいらは、ほんとうに赤べえだってば。つのがなくても、ほんものの赤べえだってば」

ふるえながら叫んだが、だれひとりきく耳をもたない。それどころか、あんなに仲のよかった青ノ助まで金棒をふりあげて、こう呼ばわったのだ。

「みんな、赤べえの仇、雷光の手下を討ちとって、血祭りにあげようではないか!」

「おお!」

「おお!」

「おお!」

鬼どもはいっせいに立ちあがった。赤べえは、ほら穴の外にとびだした。

「にがすな! 明日の朝めしだ!」赤べえは逃げた。切りたった岩をとびはねながら、すさまじい勢いで逃げた。が、ついに断崖絶壁においつめられた。

―つのがないというだけで、いとこや仲間たちまで、おいらを殺して食おうというのか―

言いようのない悲しみが、胸の奥ふかくわきあがってきた。

赤べえは静かに身をひるがえすと、はるか下の海にむかって、まっさかさまに飛びおりた。