【前回の記事を読む】「おれをとって食うだと? ふざけるない。この鬼のなりそこないめ!」力尽きた赤べえは人間の漁師たちに痛めつけられてしまった…

つのを折った鬼

こんなふうにして、つぎの日も、そのつぎの日もすぎた。けれども、つのは、いっこうに生えてこなかった。赤べえはうろのなかで膝をかかえて、鬼ヶ島での日々を思った。

―ああ、つのさえあれば、こんなみじめな暮らしはしないのに……つのが生えたら、きっとまた島にかえって、仲間といっしょに人間どもを襲って、おもしろおかしく暮らしてみせるんだが……まったく人間ときたひにゃ、つのをみただけで、ふるえあがって逃げだすんだから。

逃げそびれりゃ、さんざおいらたちのために働いて、そのあげく、うまい刺身や塩づけになってくれるじゃないか。まったく、たまらないぜ…… つばをのみこみながら、うっとりと思いだしていた。

―じっさい、人間どもの金と宝があれば、なんだって思いのままだ。ぜいをこらしたトラの皮のパンツ、いや、それよりも、ピシッとしたトラの皮のシャツ、それに女や子どものよろこぶ、花もようのつの飾り、ぬいぐるみのシシやトラ、そんなものがいくらでも、好きなだけ手にいれられる…… ああ、つのが、つのが、生えてくれたらなあ―

しかし、つのは、やっぱり生えてこなかった。赤べえはすっかり元気がなくなって、夜も昼も、うつろなまなざしで、松の木の根方をみてばかりいるようになった。

そんなある日、いつものように、ぼんやり松の木の根方をみていると、一匹のアリがもがいているのが目にはいった。松ヤニに足をとられたらしい。アリは足をバタバタさせて抜けだそうとしていたが、しだいに動きがにぶくなり、ついに動かなくなってしまった。

赤べえはじっとそれをながめていたが、なにを思ったか、急に立ちあがると、松の枝を二本折って、とがった石で削りだした。