ネムとジド
ネム、ネム、ネーム、
あたまでっかち ネーム
遠くで子どもたちの声がきこえる。学校がおわるころになると、ときどきこんな声がきこえる。ネムはうれしそうに床に両手をつくと、ゆっくりと体をおこして、戸口にむかって歩きだした。
声が大きくなった。
よだれったらしの ダーラダラ
アヒルのあしの ヨータヨタ
まえかがみの姿勢で子どもたちをみつめると、よだれをたらしながら、ニカッと笑った。
「あおおー」
ひどいがにまたで、両手はだらりとまえにたれている。
「でたーっ!」
子どもたちは、大声で笑いながら逃げだした。
ついこのあいだまでいっしょにあそんだのに、今はだれもあそぼうとしない。
―ぼくも学校にいきたい―
そう思っても、口にだしていうと、「おーぐ、あっごーいーあい」としかきこえないし、なにをいっても、なかなかわかってもらえない。
だから村の人たちは、ネムにはなにをおしえても、むだだと思っていた。それに、わずかとはいえ金もかかるので、学校にいかせてもらえなかった。
ネムはのろのろと、家の裏手の林にむかって歩きだした。
林は丘に沿うようにのびていて、それがとぎれたあたりには、二年まえにできた、村の小さな学校が、ぽつんと立っている。
学校といっても、ほったて小屋のようなものだけど、週に三日、牧師か地主の使用人が、子どもたちにかんたんな読み書きと計算をおしえている。
ゆるやかにうねった丘のふもとには、川が流れ、ひろびろとした畑がゆったりとつづいていて、そのなかに、柵にかこまれた旦那の屋敷がある。
それは大きな母屋を中心に、まわりに使用人の小さな家、それに家畜小屋や納屋が、かこむように散らばっているというものだ。ネムの両親は、この旦那の畑を借りて耕している。
以前、父さんが病気ではたらけなくなったとき、旦那からお金を借りたせいで、自分の家と土地を、ほとんどぜんぶ手放したからだ。それでもまだ借金がのこっているので、そのお金と土地代の支払いのために、年がら年じゅうはたらいている。