【前回の記事を読む】「腰痛ジャングル」に迷わないために一読してほしい〝ガイドブック〟
図版
脊髄で調整された侵害感覚情報はふたつの道に分かれ、脳へ投射する経路を上行して行く。ふたつあるそのひとつが進化的に古い経路である、脊髄網様体(もうようたい)路、脊髄視床下部路、旧脊髄視床路である。これらは痛みの情動成分、つまり〝どのように″痛むのかを分析する経路である。
これらの細胞核群で調整された情報は、三次求心性線維に送られる。脳幹の細胞核群は辺縁系に向けてセロトニン(S)、ノルアドレナリン(NA)などの神経修飾物質を上行性に送る一方、脊髄に向かって下行性に神経修飾物質を送り、脊髄の抑制性介在細胞を興奮させる。
脊髄からの情報と脳幹を経た情報は、間脳の視床下部にも送られる。視床下部はホメオスタシス(身体恒常性維持)の中枢であり、侵害感覚が届くと体全体に指令を発する。
脳幹の細胞核からは大脳の辺縁系に信号が送られる。辺縁系はさまざまな情動を生み出すが、痛みの不快情動は側頭葉にある扁桃体(へんとうたい)でつくられる。同じく側頭葉にある海馬(かいば)は不快情動を記憶する。前帯状回(ぜんたいじょうかい)、島(とう)皮質(前部)、前頭前野内側部などの大脳皮質は不快情動の知覚を担っている。
辺縁系からは下行性に中脳の中心灰白質に信号を送っている。中心灰白質は視床下部とともに情動の出力を担う中枢である。中心灰白質の活動により脳幹の橋(きょう)や延髄にある神経核群の活動が高まり、脊髄に向けてアドレナリン、セロトニンなどの神経修飾物質が放出される。
鎮痛薬のアセトアミノフェンの作用機序として脳幹下行性抑制系の賦活が考えられている。オピオイドは脳幹神経核にも作用してドーパミンの放出を促し、辺縁系における快情動を高める作用もある。
・感覚
脊髄からの進化的に新しい経路である新脊髄視床路を通って上行した活動電位は、脳幹を通過して間脳の視床外側部に至る。視床外側部では侵害感覚の空間的範囲などが再整理される。
視床外側部を経た活動電位は頭頂葉にある体性感覚野と島皮質(後部)に送られる。これらの皮質は痛みの位置感覚の知覚を担っている。つまり体の〝どこが″痛むかを決めている。頭頂葉連合野では痛み感覚と視覚との統合がなされており、姿勢や運動と関係した痛み感覚が処理されている。
・認知
前頭葉の前方部分である前頭前野のなかでも前頭前野背外側(はいがいそく)部はヒトで著しく発達している。前頭前野背外側部では痛みの意義、判断、疼痛関連行動の決定、社会生活上の痛みのもつ意味の認識など、痛みの高度な処理が行われている。