作者は有名な長崎の平和祈念像の彫刻家、北村西望であった。彼は平和祈念像の作成中、像の足元に見つけた一匹の蝸牛が翌日像の頭頂にまで上っていたことに感心してこの句を詠んだと後から聴いた。
宿の人に案内された部屋の壁に、これも西望独特の書体の額が掛けられていた。「神人和楽」という宿坊に相応しい書であった。この宿と北村西望がどういう関係があったのか分かったのは翌日だった。
翌朝の六時、神に玉串を捧げる朝拝を見学する為に御嶽神社に詣でた。朝の冷気の中、社殿前には堂々と狛犬ならぬ一対の狼がすくっと首をもたげ鎮座していた。
もう一つ、神社前庭に目を引いたのは、鎌倉武将畠山重忠の見事な騎馬像だった。先回に続き、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の話題になってしまったが畠山重忠もその13人の1人である。
謀略により謀反の罪を着せられ一族は滅ぼされたが、実は清廉潔白な好ましい人物であったと伝わり、今もファンが多い鎌倉武将である。ここで思いがけず重忠像と出会えたのは嬉しかった。
特に鎌倉時代には「金峰山御嶽蔵王権現」として御嶽神社は有力な武将達から信仰され、源頼朝は神社の改築修理事業を行なっている。畠山重忠も鎧、鞍、太刀をここに奉納しており、現在それらは国宝になって神社の宝物館に展示されている。
午後改めて宝物館を訪ねた際、館員の説明で凛々しい重忠の騎馬像も二頭の狼像も、製作者は先に紹介した蝸牛の俳句の彫刻家の北村西望であると聞いたのである。
たまたま神社の階を下りてきた神官らしい老人に北村西望について尋ねてみると、こちらの期待以上に経緯を語ってくれた。
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