はじめに
高校時代の友人仲間と、月一度古街道歩きの会を始めてから十数年経つ。
長い歴史の年月、この道を通ったであろう人々への思い、自然、当時のインフラ事情への興味、もちろん健康増進の目的も含めての歩く会だが、ここで私は度々期待してはいなかったある出会いをした。あちらこちらで目にする句碑である。
公園の片隅に、城跡に、建物の陰に、山道の大樹の下に、寺や神社の境内に、田舎道の道祖神の隣に……。日本中の場所に人の詩心がばら撒かれている。世界中のどこに他にこんな国があるだろうか。様々な人々の、様々な年代の句碑と出会い、それぞれの一句の背景に想いを馳せるのも、歩きながらの私の楽しみの一つになった。
芭蕉と三角むすび
コンビニの棚に並ぶおむすびは丸型より三角形が多い気がする。この三角型むすびの発祥の地と伝わるのが、東海道五十三次二番目の宿場川崎宿なのだそうだ。
八代将軍徳川吉宗が川崎宿宿泊の折、本陣責任者の田中何某が白米の飯を機転で調達し握り飯を作り吉宗一行の空腹を満たしたことを吉宗はいたく褒めたそうである。
それ以来、三角に握った三つのおむすびを丸い盆に並ベ徳川の葵の御紋に見立てたものが「御紋むすび」として、その後三百年もの間川崎宿の名物であったと伝わっている。