「危ないから退いとけ!」

平八郎の警告に、弾かれたように奉公人たちがその場を逃げ離れていく。

「射!」

号砲が鳴る。こもったような破裂音とともに百目玉が飛び出し、門を木っ端微塵に破壊していった。またも歓声が沸き起こる。いや、さっきの倍ほども歓声は膨れ上がっていた。

「第二発、射!」

二発めは建物の壁をぶち抜いた。泰平の世の今誰も聞いたことのない、雷のような轟音が市中に鳴り響く。煙が風に吹き払われると、中庭に備え付けられた蔵が現れた。

「蔵や。あそこに米を貯め込んだるぞ」

平八郎の声にカイが飛び出し、崩れた壁を乗り越えて蔵の前に立った。そして帯に差した短筒を抜いて、蔵の錠を弾き飛ばした。扉を開けて中を確認してから、遠巻きに見る一党に向けて叫ぶ。

「みんな来い。ごっそり隠してあるぞ」

カイの手招きに呼応して、ついてきた農民たちがわれ先にと蔵に詰めかける。そして各々が米俵や金品を手際よく運び出していった。

「ほしいだけ持っていけ。これは盗みやない、取り返しとるだけやさかいな」

平八郎は自分が企図したことながら、彼らの浅ましさにかすかな嫌悪感を抱く。だが残念ながら農民や町人は施行札や大義では動かない。目の前に餌を撒く必要がある。致し方あるまい。大方が運び出されたあと、火矢が店中に放たれた。

「天誅!」

また声が上がった。

次回更新は4月26日(土)、11時の予定です。

 

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