【前回記事を読む】「米を買い占めて値を吊り上げ、飢える者横目に暴利を貪る悪徳商人…天誅!」けたたましい銃声のあと、ゴトン。看板が地に落ち…

鼠たちのカクメイ

そうだ、これは天の仕業だ。俺たちは天に代わって悪を成敗しているに過ぎない。燃え上がる火の手、這い回る黒煙。とうとう屋敷の中から、善右衛門と番頭たちが飛び出して来た。

「天誅! 天誅!」

燻されて逃げ出した虫を見つけたときのように、一党が善右衛門たちを取り囲んだ。手には鎌や鍬、包丁を握りしめる者もいる。

「ひいい、お許しを」

額を地につけて助命を請う善右衛門に凶行が及ぼうとした時、先ほどの短筒が警告を鳴らした。

「おい。殺すな。俺たちの的はそいつじゃねえ!」

カイの一喝に、有象無象の衆の動きが止まった。

「皆の者! 手出しはならん!」

平八郎も割って入り、善右衛門の前に立ちはだかった。

「町人に手をかけては『救民』の名がすたる。わしらはやくざ者やないんやで」

一応静まりはしたものの、おあずけを食らった野良犬のような目をしている。カイのおかげで避けられた。だがこの空気はやはり危うい、と平八郎は危惧した。

  

東町奉行所の物見台には遠眼鏡を覗く町方の姿があり、馬に跨った跡部が落ち着かない様子で見上げている。

「物見の者。委細報告を!」

「叛乱一党、ただいま北船場に入りました」

町方がお奉行様に漠とした一報を入れる。