【前回の記事を読む】30歳の男が18歳の少女へ宛てた手紙。8枚にもおよぶその手紙には彼女への下心が見え透いており、さらに文末には…
2章 一本道と信じた誤算
「ねえ、どう思う?」
読み終わっても、あさみがうんともすんとも言わないので、少女が聞いた。あさみはガサガサと便せんを元の封筒に戻し、そっけなく少女に返した。
「恋文だわ。キザな恋文。越前さんはあなたのことが好きみたい。それであなたは越前さんのことをどう思うの?」
「いやよ、あたし、あの人こわい。近づきたくない」
少女の『ない』という発音が、あさみの耳にはときどき『ニャイ』と聞こえる。見た目の幼さというものが聞く側の耳にも影響するのか、気になって仕方ない。
「そばに寄ってこられるのも、おそろしい。嘆きの騎士だなんて、あたしにはちっともわかんニャい。大人の男の人って、こわい。もうダンスなんか、やめちゃいたい」
「その中には良くないことも書いてあるけど、ダンスがステキな趣味だというのは、あたしもそのとおりだと思うの。
越前さんがいやだったら、彼のことを無視して踊っていくことはできない? こんな手紙には返事を出さずに知らんふりして、純粋にダンスだけ楽しめばいいんじゃない?」
「できない――できニャ、い」
あれこれと一時間も話し合ったあげく、あさみが代わって文面を考え、断固とした拒絶の返事を出すことに決まった。それで少女の気持ちがおさまった。