あさみは複雑な思いで、窓際の少女の机に向かい、下書きの鉛筆を持った。
『まったく不愉快です』『個人指導などされたくありません』『お付き合いする気は毛頭ありません』『二度とお手紙をいただきたくありません』『ちょっとでも私を見たり、私に話しかけたり、私のそばへいらしたりしないでください』
などと、少女の希望でそんな強い文言を入れなければならなかった。少女はあさみに感謝し、下書きを丸写しにした。便せん一枚の手紙は一気に仕上がり、少女は出来栄えに満足した。
少女の家を出て、あさみはゆっくり歩き、駅前のポストまで来た。そこで気持ちが萎(な)えて考え込んでしまった。
頼まれて預かったこの手紙に関して、あさみの意思はほぼなく、したがって責任もないわけだったが、非常に後味 (あとあじ)が悪い。
まるであさみがわざと書かせたような気分が残っている。もしこれがいい返事であったなら、涙しながら愛の美しい犠牲に心を酔わせることもできたのだろうが……。
しかしそうではないので、一人の男性を二人で取り合うという醜い嫉妬心から、自分より十歳も年下なのをいいことに、少女の気持ちを無意識に誘導して、結果的にこの手紙を書かせたのかもしれない、という、何とも言えない後ろめたさが残っているのだ。
違う、決してそんなことはなかった、と否定してみても、この中の文章や言い回しはあさみのものだ。弁解の余地はない。