少女の激した感情のままに、あさみが書いたのだ。曲がりなりにも十歳年上の者の頭を通ったのだから、直接的で不人情な言い草をもう少しやわらげ、一人の人間を傷つける幼い感情的な調子を抑えるぐらいは、当然すべきだった。それをしなかったからには、これは投函すべきでない。
実際投函せず、手紙をうちへ持ち帰ってきた。そして改めて、越前の気持ちを踏みにじるような箇所をすべて抜き、少女の筆跡をできるだけまねて幼い言葉遣いをし、わざとらしいニャンニャン言葉も混ぜ込んで言葉柔らかに書き直しをした。
そうすることで、ようやく気持ちが落ち着いてきた。心に少しのやましさも感じずに、越前の恋の成り行きを見守ることができるように思えた。
書き直したものを投函し、元の便せんは破いて捨てた。その後、気を取り直して例会に出てきた少女は、以前にも増して越前を避けていた。
越前はと言えば、少女らしい臆病さとはにかみ、そして姿に似合わない思慮深さなどを、手紙の中に読み取ったとでもいうのだろうか。
――あの子は目覚ましい進歩だよ、ステップがしっかりしてきた、先が楽しみだ、会員と交わすそんな聞こえよがしの会話が聞こえてきたのだ。
あさみは自分が間違ったかもしれないと思った。ああいう言葉が少女の小さな胸にどうこたえるか、越前は承知している。
彼にとっては少女もあさみも同じ、お手の物なのだ。彼のほうが一枚も二枚もうわてだった、とあさみは思い知る。
次回更新は8月6日(水)、22時の予定です。