「一党、ではわからん。人数は?」

「す、数十名かと」

「数十名とは何だ!二・三十名なのか五十名以上なのか?」

「それが……野次馬と一党の区別がつきかねます」

「ええい。武器は?」

「は。細筒の者が十名ほど。あとは……」

そのとき、大筒の号砲が鳴った。その音に馬が怯え、跡部が振り落とされた。

「御奉行様!」

落馬は武士の最大の恥である。同心たちは笑いをこらえながら、地面に叩きつけられた跡部を助け起こした。この一件は民衆の間でも噂となり「馬と大塩に振り回されたお奉行様」と後世まで語り継がれることになる。

  

北船場にある鴻池屋本店。建物の壁を農民たちが木槌や鍬などで壊し始めていた。火矢も次々とあびせかけられ、界隈随一の大店が炎上していく。大坂の空が紅蓮に染まっていくのを、意義は眉をしかめて睨んだ。

(憎悪の色とは、このようなものか)

憎悪が正義を産めるものなのか?胸がざわつく。

「天誅! 天誅!」

カイの方は、題目のような歓声にわが身を震わせている。

(すっげえ。これが、これがカクメイか)

平八郎は、手短に今後の行動を格之助らと打ち合わせた。

「皆の者。これより二手に分かれる。格之助は木筒隊を率いて今橋の北風家。本隊はわしとともに高麗橋の三井や」

北風家は例の廻し米を主導した豪商である。その大坂分店が今橋で商っていた。言わずと知れた三井は鴻池屋と並ぶ財閥だ。