【前回記事を読む】カチリ、と背後で音がした。慎重に振り返ると、暗闇の中で拳銃を構える人影が立っていて……「引き金を戻せ。カイ」「おっさん、か?」
鼠たちのカクメイ
結
「あんた、真面目過ぎんだよ。オイラは斬られるくらいなら、やっぱ斬るけどな。なあ、おっさんはなんで洗心洞に入ったんだ。もう、なくなっちまったけどよ」
カイは、講堂だったであろう焼け跡を見渡しながら訊いた。
「俺は若い頃、家名に泥を塗る悪さをしたんだ。盗みを働いて、あまっさえその金を賄賂に使った。その時は正義だと思ったんだ。
俺の祖父にあたる田沼意次は賄賂を黙認していた。そのおかげで幕府の財政を立て直すことができた。だが権力者が代替わりすると、あれは悪だったと掌を返された。すると今度は景気が悪化して財政がひっ迫した。また贈収賄が横行した。俺はその時流に乗って賄賂を贈った。失脚した田沼家を再興したいと思ったからだ。
そのおかげでわが父は側用人という重職に就くことができた。だが、あのひとはそれを辞退すると言い出した。正義のない出世などする気はないと。納得いかなかった。すると父上は切腹をしようとした。涙を流してな」
「……」
「俺は自ら、父上に勘当してくれと願い出た。己を罰してほしかった。番所に自訴した。そして、こんなものを入れられた」
意義は左の片袖をまくって見せた。咎人が彫られる青線の刺青だ。