大坂の街中に西町奉行の札が立てられ、人だかりがしている。その中には、編み笠をかぶって市中の様子をうかがう美吉屋五郎兵衛の姿もあった。立札には「告 先の大塩の乱に与し者と其の一族を捕縛…」とある。五郎兵衛が読み進めていくと「大塩ゆう みね 弓太郎」という名が明記されていた。離縁した大塩家の妻子たちである。

(弓太郎殿はまだ三つほどの幼子のはず。そんな馬鹿な!)

思わず叫びかけたが、その場は慌てて自重した。自宅に戻った五郎兵衛は、握り飯を盆に載せて離れに向かった。

「わしです。入ります」

中には無精髭を生やし、やつれた感のある平八郎と格之助がいた。

「おお、すまぬな。いつも」

平八郎は握り飯を取り、格之助にもひとつ渡した。五郎兵衛はいかにも言いにくそうにふたりに報告する。

「先生。婿殿。お気を確かに持って聞いとくなはれ」

「どうした。勿体をつけて」

「弓太郎様が……牢獄に入れられました」

格之助は思わず握り飯をとり落とした。

「弓、坊」

大塩父子は来るべき時が来たことを知ったのだった。

次回更新は6月20日(金)、11時の予定です。

 

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