【前回記事を読む】おふくろは捕まる前にオイラを肥溜めの中に隠してくれて、言ったんだ。「あんたは父親みたいになるな。」って
鼠たちのカクメイ
承
「ああ、大坂住みは飽きたな。そもそも食い物がわしの舌に合わん」
坂本は閉口した。この人は大事の前に必ずどうでもいい戯言を始める。
「まずはあのうどんよ。腹さえ膨れればよいと言わんばかりの……」
「畏れながら、御城代。これよりそれがしはいかが動きましょう」
と話の先を促すと、上司はその目に笑いを滲ませながら言った。
「話は最後まで聞け。大坂には飽き飽きしておるわしだが、好機が到来した。この叛乱、わしらの見せ場とせねばな」
「御意」
「よいな。わしらの、だぞ。奉行どもには踏み台になってもらう」
なるほど。気乗りせぬふりをして見せて、町奉行を牽制したというわけか。おそらく御城代は叛乱一党を暴れるだけ暴れさせて、ここぞという頃合いで鎮圧に乗り出すお心づもりなのだろう。ここで大手柄を上げれば、武士の最高位老中にまで駆け上がれるだろうか。そしてそれがし自身も……これは急がねばならない。
「絃之助、道具はお主に任せる。大筒、中筒、細筒、それから何と言ったか、ほれ」
「カルバリン砲です」
カルバリン砲は大坂冬の陣で徳川方が使用し、大坂方を委縮させた英国から輸入した大砲である。その後改良を施したものが大坂城に保管されていたものと思われる。
「それが何物かは委細知らぬ。だがお主が役に立つと思うのなら、城の中にある物はどれでも持っていけ。わしが責任を持つ」