【前回記事を読む】まさか、今のこの泰平の世に謀反の狼煙を上げようなどという者がいるのか? しかも聞けば首謀者はわれらの仲間…
鼠たちのカクメイ
承
「聞き捨てならんな。小僧、愚弄する気なら……」
腰の刀に手をかけた大井を見て、平八郎は重い口を開いた。
「者ども、鎮まれ! アホか、抜く場所がちゃうやろがい」
叱られた飼い犬のように塾生たちが静粛する。塾長はやれやれの表情だ。
「カイ。侍も百姓も変わらん、とはどういう意味や? これもええ機会や。腹の底にあるもん、吐き出してみい」
これから成すことにはカイのような者が必要になる……意義はそう言った。それを信じてこの少年の意思を確認しよう。
「ガキの頃、オイラの村でも飢饉が起きたんだよ。それでも年貢の取立てはおかまいなしでさ……」
時期からすると第一次の天明の飢饉。この少年はおそらく関東近郊にある農村で生まれ育ったのであろう。
「こんな風に村の大人たちが寄り合って、相談したんだ。オイラの親父、小吉っていうんだけど、先頭に立って一揆の支度を進めていたんだ。オイラの親父は役人たちにばれないように慎重に準備をしていた。だけど村方の役人どもがその寄り合い所に踏み込んで来たんだ。親父は真っ先に召し捕られた。全て密告のせいだ」
百姓一揆とわれらの崇高な決起を一緒にするな。そう腹の中で思う者もいたが、平八郎が熱心に聞き入っているのを見ると誰も言い出せない。
「親父は磔獄門。密告した奴は報金もらって、今でもどこかの村でのうのうと暮らしているらしい」