「あかん。暴発や」

格之助が顔をしかめる。前装式の火縄銃は銃口から奥底に火薬を詰めるため、発砲を繰り返すうちに銃身に残った火薬が引火して暴発することがたまにあるのだ。格之助は意義にお辞儀をし、塾生の安否確認のため広場に向かった。医師でもある宇津木が応急処置をはじめている。

「宇津木殿。貴殿はこの者を連れて塾に戻られよ」

怪我人を医師に負ぶわせる養子を見守りながら平八郎は、意義に聞かせるともなく呟いた。

「わしの養子ということで、あれも奉行所ではつらい立場にあるようや」

つまり彼は職場で内部スパイのように思われている、ということなのだろう。

「ああ。それと例の品ですが」

「うむ。大儀やったな」

ふたりは河原に降りて、大八車の中を確認する。木箱に納められた「仏郎機」と当て書きされるその武器は、この日の曇り空のような鈍色だった。

「二門とも、部品がいくつか欠けてます」

意義は不良品であることを知りながら、仲買の武器商人から言い値で購入した。噂にも立てられたくなかったし、急ぎということもあったからだ。

「ええんや。こいつは、存在そのものが武器になるんやから」

ハッタリ。そもそも洗心洞のどこを探しても、洋式砲術を会得した者はいないはずだ。おそらくそうであろうとわかってはいたが、懸念材料がひとつ消え意義はほっとした。

「なあ、渡辺。旅から戻ったばかりで済まんのやが、また頼まれてくれんか」

「なんなりと」

秋も深まり、自分にとって気の重い季節へと向かっていく。紛らすための仕事が続くことは願ってもないことだった。意義はまたほっと息をついた。

        

【前回記事を読む】「大塩先生もおまえのと同じ銃をお持ちだ。名手だから、あとで教えてもらうといい」どんなひとなんだろう?大塩平八郎って。

次回更新は2月15日(土)、11時の予定です。

 

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