僕の大学デビュー天下取り物語
時間が迫り、僕らは決戦の場所である駐車場に向かった。
各々の武器をワゴンRに詰め込み、AK-69を爆音で流しながら、無理矢理、荒い運転をして。駐車場に着くと、まだ工学部の連中は来ていなかった。
「あいつらビビって来ないんやね?」
「確かに」
そんなときだった。
「ブォン! ブォン、ブォン! ブォン! ブォーン!」
地元の北九州でしか聞いたことがない爆音が、夜の駐車場に響き渡った。
眩い光が列に連なって、竜のように蛇行しながら駐車場に入ってくる。怪物の唸り声のようなその音と、竜のような光の列の正体は、バイクだ。それも二、三十台の。
バイクにまたがっているのは明らかに大学で見ていた工学部の連中じゃない。「クローズZERO」の映画にまんま登場していたようなヤツらだ。
「え? え? え?」
僕らはみんな明らかに戸惑っている。
先頭のバイクの後ろから、一人降りてこちらへ向かってくる。金髪坊主だった。
そのとき僕らは自分の間違いに気づいた。
この金髪坊主は本物だった。本物の元ヤンキーだったのだ。ドラマとかだけかと思ってたが、たまにいるのだ。昔本当に悪くて、でも更生して勉強を頑張って国立大学に来たみたいなヤツが。
金髪坊主はどうやら、それだったのだ。金髪坊主もどうせ大学デビューだろうと完全に見誤ったのだ。
「しゅんっていうのは、どいつだ?」
僕は自分の名前を呼ばれてドキっとした。
僕がこの事件の首謀者で、農学部の代表というのは向こうも知っているようだ。
周りの仲間達がみんな僕を見つめる。
「おらあ! とりあえず土下座しろ、お前ら!」
金髪坊主に続いて、首にウソみたいたタトゥーを入れた男がそう吠えながらこちらへ向かってくる。
「どうしよう」
僕は必死に脳味噌をフル回転させた。
どう考えてもここは全力で土下座して、怪我を少しでも少なくして帰るのが正解だ。
ただ、今後の大学生活はどうなる?
元々は僕の「喧嘩してー」発言が発端だ。なのに、あいつ口だけだったんだ、あいつイキってただけでただのビビリだったんだ、とか仲間に全部バレてしまう。せっかく過去に蓋をして生きてきたのに、過去戻っちゃうんだ。
土下座するにしてもせめて一番ではない、新一郎とか他の仲間達の後だ。新一郎とか他の仲間達も大学デビューだったと確定した後にしないと。
「どいつがしゅんだ?」
金髪坊主は威嚇しながら、どんどんと近づいてくる。
そんなとき、僕は「クローズZERO」を思い出した。たくさんのヤンキー達を相手に暴れまくる小栗旬の姿。
僕はこの大学でも見事に成り上がれたじゃないか。なら、今の僕にできないことはないんじゃないか。何故か不思議と、まだ高く飛べる気でいる自分もいるのだ。
覚悟を決めた。ここで引いてもどうせ今後の大学生活は地獄だ。
ならば、ここで自分の可能性を信じてやれるだけやってみようじゃないか。きっと周りの仲間たちも覚悟を決めてるはずだ。